〜お悩み相談〜 江東の虎編
私は姓は孫。名は堅。字は文台。人は私は江東の虎と呼ぶ。
愛する妻と可愛い子供たちを持つ幸せものだ。そんな私だが、悩みはある。
ほかでもない、長男の策のことだ。否、正確にいうならば策の友達についてだ。策に友人ができたということは、策からの手紙にも妻からの手紙にも書いてあったので、知ってはいた。
それが、名門周家の御曹司、周瑜だとは。
舒に周郎ありといわれている音に聞こえた優秀な少年、その少年と友達になったとは流石私の息子といった誇らしい気分になり、会うのが楽しみだったものだ。
だが、彼に会ったとき私は一瞬ではあったが言葉もでないくらい驚いたのだ。
巾から零れる艶やかな絹糸のような黒髪、透き通るように白い肌に、黒曜石のごとく輝く黒い瞳。紅でも挿しているかのような紅い唇。
洛陽でもこれほどの美少女はいまいという、将来が非常に楽しみなような、末恐ろしいような、どこからどうみても完璧な美少女にしか見えなかったのだ。
策の奴、一体どういう手を使ってこんな美少女…じゃなかった、少年と知り合ったというのだ。
『公瑾から訪ねてきたんだよな』と策が言えば、その通りとばかりに彼は頷き、その後の挨拶も非常にしっかりしたもので、緊張の為か少し声が上擦るの様も非常に愛らしく、益々唸ってしまったものだ。
聞けば、公瑾は早くに父を亡くし、父代わりだった兄も今は洛陽で官吏として働いていて不在だと言う。
策とは義兄弟の契りを結んだというから、ならば私にとっても息子同然。ならば『義父上』と呼びなさいというと、頬を赤らめ『義…父上…』と恥らうようにあえかな声で呼ぶものだから、私は思わず抱きしめてしまった。
腕の中にすっぽり納まる華奢な身体になんだか、いけない気分になってしまったのは妻には内緒だ。
うーむ。気のせいか策の私を見る目が厳しい。
このままでは父の威厳が保てなくなりそうで怖い…。やはり義父上と呼ばせるのはやめておいたほうがよさそうだ。
そう思い少々もったいなく思いながらもなるべく威厳を保ったままでそのことを告げた。僅かに首を傾げ私の言うことに耳を傾ける様も何とも愛らしく、再び抱きしめたくなるのを抑えるのに苦労した。
数日後、公瑾は『旦那様』と呼んできたのだ。
何とも妖しげな響きを持つ言葉に私はくらくらしてしまった。この呼び方も改めさせねばならないな。では何と呼ばせたら良いものか本当に困ったものだ。