お悩み相談〜美周郎編〜
私は性を周、名は瑜。字は公瑾と申します。
最近、困ったことがあります。それは親友のこと、否、正確に言うならば親友の父についてということでしょうか。
私の親友、孫策は江東の麒麟児と呼ばれる、非常に破天荒な性格ですが、私にはないものを持っている彼とは不思議と意気投合し、義兄弟の絆を結ぶまでに至りました。
彼、孫伯符のお父君は江東の虎と呼ばれる、英傑であります。
そのお父君が、この度お戻りになるということで、伯符は私に父を紹介したいと言ってくれたのです。私は嬉しさと同時に緊張もしていたのだと思います。
初めてお会いした、孫堅殿は堂々とした体躯と威厳を持った、まさに理想の父そのものといった風でした。
幼い頃に父を亡くした私を不憫に思ってか『義父上』と呼びなさいと仰ってくださいました。『義父上』と告げた声は面映さに少し震えてしまったかもしれません。
それでも、孫堅殿は私をぎゅっと抱きしめてくださいました。
これが父親の温もりなのかと、私はその広い胸に顔を埋めながら思ったものです。けれど、孫堅殿は数日後『やはり義父上という呼び方は、やめなさい』と仰ったのです。
私は何かお気に触るようなことをしてしまったのでしょうか。
内心の不安を押し殺し、首を傾げる私に『義父上というのは、亡くなった君の父上の存在を消し去るようなものだから、やはりよくないだろう』と仰られたのです。
私は思ってもみなかったことですが、せっかくのお心遣いでもあるので、素直に従うことにしました。それでは何とお呼びしたものかと、伯符に相談を持ちかけてもみたのですが、何故か私が孫堅殿の話をすると伯符は不機嫌になってしまうので、やめました。
伯符にしてみれば、私にお父上を取られてしまうようで面白くなかったのかもしません。
それに関しては、私の考えが足りなかったと素直に反省するところです。考えた末に伯符の母上、呉夫人を『奥様』と呼んでいることから、『旦那様』と呼ばせていただこうと思い、お声をおかけしたのですが、孫堅殿は何やら、難しい顔をして考え込んでしまわれました。
やはり、私は机の上での学問しかできないのでしょうか。
こんなふうに親友の父君との距離ですら計れないとは情けない話です。人との交わりとは何と難しいものかと考えずにはいられない今日この頃です。